日野の家 設計ノート

■敷地と環境

周囲は再開発が進んだ丘陵の平坦地で、近くに湧水や河川のある緑豊かで閑静な住宅地です。縄文時代の遺跡が出る埋蔵文化財包蔵地域で、古より人が住んでいた場所です。

東西南北の方位から45度振られた向きの北西から南東に伸びる2区画で、北に接道の角があり南が隣地の角になる敷地です。そして南側には隣家が建ち並んでいるため採光に工夫が必要でした。平坦地とはいえ2区画分のレベル差が400ミリ程あるので、その解消方法も重要な課題でした。

 

■家族構成とご要望

 家族構成はご夫婦と子供2人の4人家族、愛犬の子世帯と、お母様お一人の親世帯の2世帯住宅です。2面接道する北西側に2階建ての子世帯、中庭を介して南東側に平屋の親世帯という構成で、将来を踏まえ中庭の範囲で2棟に分割できるようにとのことでした。

お母様がご高齢ということもあり、親世帯は介助し易いプランニングで、子世帯から常に様子が分ることや、最短でアプローチできることが重要な条件でした。

 近年多発する地震、夏の猛暑、集中豪雨への対策が望まれました。耐震等級は3同等、断熱は次世代断熱基準で断熱性能等級4以上、雨水は宅内浸透義務がある地域なので、浸透枡の数を増やした上に連結する等万全の対策をとりました。

 内外装に用いる素材は一般的な住宅建材である大手メーカーの既製品がご希望でした。

 

■プランニング

 当初は諸条件のみを頂き、直接のヒアリングなしでのプラン提案でした。敷地の特性を生かしながら想像を超えたものを提案するために思索を重ねました。第1案でご満足頂き、若干の調整を加えご了承、続く模型でのプレゼンテーションで基本設計が完了し実施設計に進みました。

 中央に配された中庭は嘗て日本家屋の縁側のような空間、機能になっており、両世帯ともここから主な採光と通風を取り込む形になっています。また、小庭や坪庭、駐車場等の外部空間を凹状に食い込ませる形で配置し、通風、採光と同時に機能な側面も充実させました。一部にスキップフロアを採用するなどして立体的な構成にし、変化が楽しめるプランとしました。

 

■外観のデザイン

 敷地の特性を生かして水平を強調したデザインとしました。寄棟の平屋棟の軒を低く抑えて基準とし、それが20m程続きます。2階の屋根は切妻で、ブロックごとに棟の位置や軒の出を変えることで、屋根が複雑に重なる形としました。玄関廻りと中庭の道路側には格子を用いて目隠しとし、長く続く水平方向を分断する形で構成、立体的で変化と奥行きのあるデザインとしました。

 外壁はグレーのサイディングで、水平を基調とした外観に則した横ラインのものとし、反射を抑え光を吸収する陰翳のあるものを採用しました。

 

■内観のデザイン

 玄関の外部軒附近に高窓を設け、続く居間とガラス欄間で繋がる構成としました。居間は正面に欄間のある壁面、側面は中庭に開く形で、深く落ち着いた雰囲気と開放感を同時に感じることができるものとしました。玄関と居間の天井が欄間により繋がることで、空間の広がりと光のグラデーションが楽しめる演出となっています。

 親世帯は大引戸により各室連続し、使い勝手がよく開放的なプランとなっています。通常は開放、来客時は閉めることができるフレキシブルな構成で、将来の車椅子対応を踏まえて動きやすい余裕のある広さとしました。

 子世帯の動線は心理的に心地よい自然な流れができるよう配慮しました。中廊下型プランですが坪庭や高窓を介して光や風が十分に入るようにし、階段の前後は一呼吸できるように広めに取り開放感を持たせました。個室は全て異なる装いで、ご家族それぞれの個性に合わせて設えました。