江戸川の家 設計ノート

 付近は江戸川から西に250m程入った閑静な住宅地である。緑が豊かで、川を渡る風が心地よい。
 住人は若い夫婦と子供、そしてペットのラブラドール・レトリバーである。音楽をこよなく愛する一家で、妻はフルート奏者である。

 計画にあたっては「外に閉じて内に開いた家にしたい」という要望を最も尊重した。プライバシーを守りながら音楽を中心にした精神性の高い空間を望まれた。その様なことからロマネスクの修道院のような家にしてはどうかと考えた。外部に対して閉ざされ、内部に対して開かれた形と、ストイックな精神性が、この家にコンセプトにあてはまると思ったのである。

 中庭を囲むかたちで廊下、各室があり、奥まった位置に小さな聖堂をイメージした居間を配した。居間は外光の入り方に注意を払い、深い空間の底にいるような雰囲気にした。静寂と適度に心地よい緊張感をもたせることで、望まれた生活空間が具現化されたと思っている。そして、この家の核として据えられた薪ストーブの炎は長い冬の夜、音楽と共に豊かな時間を演出することだろう。

 浴室や寝室は居間の奥に配しパブリック空間とプライベート空間を完全に分離した。スタジオや書斎は茶室のような特別な空間として考え、住居内の“隠”として居間から距離をとった。一人一人が家族との時間と自分の時間を豊かに過ごしてゆける家にしたかった。

 外観は敷地が角地であるため、個性的な造形で街角を魅力的にしたいと考えた。道巾が狭いので歩行者への圧迫感に配慮し、ボリュームを低く抑えた。将来、音楽教室を開く予定があるため、スタジオの一部をはね出して子供用のベンチを作った。この部分は“レンガのキューブ”として外観のシンボルにもなっている。