国立の家 設計ノート

 敷地は国立の街が一望できる小高い丘の上にある。眺望が良く、空気の澄んでいるときには、遠く富士山を望むことが出来る。

 この住宅は2階建ての2世帯住宅で、西側に夫婦と子供二人、東側の平屋部分に夫の母親が住む。建築主はインテリア関係の会社経営者で、業界関係や海外からの来客も多い。このオーナーは海外の優れた商品を扱う一方、日本の優れた伝統意匠や素材を取入れた商品を海外に向けて発信することに情熱を持っている。

 敷地は高低差が5メートルもあり西側は急勾配の法面になっている。眺望が良い反面、遠くからもよく目立つため遠方から見られることを意識しながら設計を進めた。

「和風で落ち着いた面持ちでありながらモダンで現在のライフスタイルに合った造形と空間」が望まれた。快適な生活と共に来客を大切にもてなす伝統的な考えにのっとり、国内外からのゲストを意識して茶会の亭主のような心構えで注意深く考えた。日本の優れた職人の手造りの技を積極的に用いて「和」の空気が静に満たされるように心を配った。数奇屋大工の技術、左官の肌触り、そして日本の代表的な工芸である陶器の技術で焼かれたタイルによる表現を試みた。控えめでありながら力強い造形、また空間になるよう努めた。

外観は黒い瓦屋根と漆喰壁による最も馴染み深い伝統建築の姿をイメージし、瓦に近い燻した風合いの黒い小口二丁掛けスクラッチタイルを使い、漆喰はキューブが外壁に貫入した表現をして面に動きを持たせた。伝統を取り込むことによりモダンでありながら品格のある表情にしたかった。

内観では玄関、居間を白い荒擦り壁とし、伝統とモダンな要素が自然な状態で繋がるようにした。玄関は地窓や面皮柱、障子、など数奇屋の素材や手法で設えた。応接、居間は庭との一体感を持たせながら壁面上部に素焼きのスクラッチモザイクタイルによる装飾を廻し、スタイリッシュで落ち着きのある空間とした。また、厨房壁面は引き筋の入った青磁のタイルとした。伝統的な素材を用いつつ職人の手を大切にすることでモダンな空間の中に日本的な品格を持たせることが出来たのではないかと思う。