付近は緑地帯や公園に囲まれた閑静な住宅地である。近くには小高い丘が点在し、川も流れており比較的緑豊かで変化のある地域である。
 住人はいわゆる団塊の世代の夫婦で子供は独立して現在は二人住まいである。柴犬と洋猫を飼っている。
 夫は長年インテリア関係の仕事に携わり、デザインに対して強いこだわりを持っている。和風の持つ落ち着きや気品をもちながら現在のライフスタイルに合った空間を望まれた。全体の配置からそれぞれの空間、素材感、家具からディテールに至るまで全てが満足されるよう丁寧で質の高い仕事を求められた。また、伸びやかで広々とした開放性とプライバシーを求められ、相対する要望を無理なく融合することが大きな課題だった。
 この家の設計では、「空間を楽しむ = 生活を楽しむ」ことに主眼が置かれている。空間との関りを楽しむ数奇屋のような家にしたいと考え、内外共、空間と空間の取り合いに気を配りながら有機的に連続し、景色としても視覚的に心理的に繋がりを持つようにした。壁仕上げは特注の左官壁を用いて柔らかい風合で繊細な陰影が現れるように骨材の大きさや主材の色、鏝(コテ)の押え方に至るまでこだわって施工した。
 外観はマッスが重なり合う立体的な造形とした。各空間が機能ごとに床レベルや高さを異にするため、その条件を生かしそれぞれが呼応しあいながら連続し一つの形になるように考えた。仕上げ材は、深草(茶室の土間に使う)調の吹き付けを用いて、伝統的な素材特有の深みのある落ち着いた感じに仕上がった。敷地は三面が道路に面しているのでプライバシーの確保が難しかったが、既存の植栽を残し、開口の取り方を注意しながら積極的に街並みと関わってゆくように道路との間合いの取り方に注意した。

家具のデザインについて
 この住宅は「空間を楽しむ = 生活を楽しむ」ことをテーマに設計されているので据付けられた家具も単なる機能だけではなく、空間に積極的に関わるオブジェとして造形的な魅力を追及した。特に居間では空間を力強く決定付け、全体と呼応しあいながら心地よい緊張感を及ぼしている。仕上げはオークのオイル調とし、木地のもつ魅力を引き出した。
ガレージについて
 建築主は車を趣味としているためガレージの配置はこの家を決定付ける大きな意味をもっていた。屋内ガレージは駐車台数や敷地条件によって居住空間を圧迫したり計画の自由度を損なってしまう。木造の場合は梁のスパンなど構造的な問題もある。この住宅では日常使う車と趣味の車を分けることでこの問題を解決した。日常の車は玄関ホールの隣に、趣味の車は居間や中庭、書斎コーナーと繋がりよく眺められるように工夫し積極的に取り込んでいる。
大船の家 設計ノート