世田谷M邸 設計ノート
 敷地は角地から一区画入ったL字型という特徴的な形状である。
 二車線で交通量の多い通りと、人通りの少ない静かな通りに面している。

 この状況を踏まえメインアプローチとガレージを二車線の通り側へ、和室棟と和庭を静かな通り側に配し、それぞれの街並みに相応しいファサードでデザインした。そのため一つの敷地でありながら異なる造形性をもつユニークな外観の住まいが生まれた。

 エクステリアはマッスを雁行させた彫刻的な造形で、そこにアイアンの繊細でシャープな線を対比させて構成した。和室棟は一文字瓦葺でムクリをもたせ数寄屋調とした。

 外壁のタイルは、この家のために焼成された特別なものである。インテリアはホールを中心に各室にアプローチするスタイルをとっている。このホールは核と存在し、動線としての機能を超えて、この住まい自体と人とが強く関り合えるものとして考えられている。この空間があることによって家を感じ、家族がそれぞれの存在を感じることが出来る。

 この家は主流の建築とは一線を画するものである。
 人が手で造る行為を尊び、素材から細部、テキスタイルに至るまで職人が時間と手間をかけて完成した、現在のアーツアンドクラフツ建築なのである。