敷地周辺は郊外で農家が点在し畑がどこまでも広がるのどかな地域である。

建築主は若い夫婦と幼い子供三人の家族構成である。

外観はシンプルな片流れ屋根で、軒を大きく出したシャープな造形とマッスを対比させた彫刻的な構成となっている。プランは空間と空間の繋がりによって変化してゆく数寄屋的な構成になっており、それが外観にも現れている。また、開き方と閉じ方にコントラストを与えて抑揚のある佇まいとしている。

インテリアは白壁とシックな木部で統一し、天井までの格子や雁行する壁を用いて空間に奥行を与えた。勾配天井により南に高く開き、外部とおおらかに繋げている。

この家は内外共に空間どうしの関係や仕切方に拘った作品である。内部は格子等視線を妨げる要素を設け、空間の廻り込みや光や影の重なりにより豊かに変化するよう設えた。外部は中庭と外庭にウォーターコートをつくり特別な干渉空間を設けた。

水は現代美術で一つのエレメントとして用いられるように抽象化された「自然」であり「芸術要素」である。水は神秘的でその存在自体が魅力的であるが、更に周囲の環境(状況)と互いに影響されながらもたらされる現象は空間を生き生きと躍動させる力がある。水に映りこんだ光は静かに音楽を奏でるようであり、闇は静寂という深遠を生むように感じる。内外のコートに満たされた“水”は空間と互いに引かれ合い、この家に異次元的な感覚をもたらす不思議な存在となっている。

現代人は様々な事情に拘束され、本来持っている“自身の感覚”を忘れがちである。現在の住まいのあり方を考えると、家とは“本来の自分を取り戻す環境”として機能することが大切なのではないかと思う。この米本の家は、そのための重要な素材として“水”を象徴的に用いて、これからの住まいのあり方を追求した作品なのである。

米本の家 設計ノート