愛知M邸 設計ノート

敷地は運河を望む見晴らしのよい高台で、周囲を森に囲まれており、景観・プライバシー等あらゆる面で理想的な住環境です。

 ご要望は和風建築でありながら現在のライフスタイルにあった充実した住まいを、更にゲストルームとして離れに専用の玄関、露地、門を造り、敷地全体を再整備するというものでした。

 外観は母屋からゲスト用玄関、渡り廊下を統一した意匠で纏め上げ、庭と一体となった景観を構築することとし、和風建築ならではの陰翳や軒の重なり、プロポーションを整える為に屋根のデザインを行いました。

 インテリアはLDKを中心に展開するプランとし、空間的な連続性、掛込み天井や障子、床の間等を適所に配し、モダンな中にも和の情緒を織り込んでいます。また和風建築において最も重要とされる庭との関係性を大切にパノラマ的な景観を楽しむ窓、小庭の風情を楽しむ窓など一つ一つ丁寧に検討を重ね、全ての開口部で異なる景色を楽しむことができるよう設えました。

 またゲスト用のアプローチには緩やかな石階段と数寄屋門を新設しました。数寄屋門は見上げとなるため軒を深くし、柔らかい陰翳を落とすことで訪れるお客様の心が静まるようになればと考えました。門を潜り中に入ると露地は諏訪鉄平石の氷割れ仕上げで、庭を楽しんで頂きながら池の石橋を渡り玄関へと向かいます。 アプローチからはじまる動線の流れは、茶道の仕来りに基づいた来客への心遣いや、凛とした空気を大切に思索され、そこに建築主の思いが重ねられ形造られました。
 
 数寄屋においては主の人柄や思いが最も重要です。その人柄や思いが形になって一つの世界が生まれます。日本的精神性を大切する建築主によって生まれたこの住まいが時を刻み、より美しくなってゆくことを願っています。