萬福寺は、鎌倉時代の創建と伝わる、真言宗の由緒ある寺院です。大正十年に八王子市で最初に開園した市民霊園である緑町霊園の中に位置しています。霊園は緩やかな南斜面に広がり、富士山の撮影スポットとしても知られています。高尾山をはじめとする多摩丘陵の山々を望むことができ、北側には八王子の主要なスポーツ施設を含む広大な富士森公園、南側には山田川が流れ、その対岸には牧場もあるなど、緑に恵まれた環境です。
本堂は昭和初期に造営された宝形造の屋根をもつ簡素な建物で、境内は緩やかに傾斜する南斜面となっています。桜の古木や松、紅葉などが植えられ、四季折々の風情を楽しむことができます。寺院の立地としてふさわしい、閑静で落ち着いた環境です。
計画当初、本堂の東側にはRC造二階建ての客殿と、木造平屋建ての庫裏が建っていました。これらは繰り返し増改築が行われており、オペレーション上の問題や、必要な諸室の広さの不足、構造・設備・断熱性能など、さまざまな課題を抱えていました。これらの問題を抜本的に解決するため、新たな客殿および庫裏の設計が始まりました。
外観については、現代にふさわしいシンプルでモダンな佇まいでありながら、「和」を感じさせる設えとすることが求められました。広間などの内装については、伝統に則った質の高い数寄屋造りとし、機能面・デザイン面ともに、新旧さまざまな要素をバランスよくまとめ、この境内にふさわしい客殿・庫裏となることが期待されました。
また工事にあたっては、お寺の日常業務や行事に支障をきたさないよう、工期や工事時期、施工方法についても慎重な検討が行われました。第1期工事では既存の木造平屋建て庫裏を解体し、その跡地に東側庫裏を造営しました。続く第2期工事ではRC造の客殿を解体し、庫裏の西側に新たな客殿を増築するという、二期に分けた計画のもとで工事を進めています。
参道は南側から階段で約3メートル上がり、本堂正面へと至る構成となっています。新客殿は本堂の東側に並ぶ形で造営しました。屋根は3.5寸勾配の銅板一文字葺きとし、続く庫裏は2.5寸勾配としています。階高の異なる棟の屋根を重ねることで、本堂から連なる屋根の変化が萬福寺の外観の魅力となるよう考えました。
外壁は、ホタテの貝殻を混ぜた吹付仕上げ、黒色で荒い肌合いのタイル、花崗石、純白の漆喰によって構成しています。1階レベルには廻廊を巡らせ、2階の外壁を内側に引くことで軒を大きく出し、陰翳のある、彫りの深いデザインとしています。
車寄せから階段を上がり玄関に入ると、右手に事務カウンター、左手に応接室があり、廊下を挟んで広間を配置しています。廊下を左手に進むと本堂へと続く渡り廊下があり、右手には仏間や大厨房をはじめとする庫裏の諸室をまとめました。二階には来客用の特別室(和室)、倉庫、住居スペースを配置しています。
客殿の内装には、壁に聚楽、天井に和紙、床には畳や桧の縁甲板など、質の高い「和」の素材を用い、落ち着きと品格のある空間としました。なかでも最も重要となる広間と二階の特別室については、古来の技法を用いた本聚楽による、最上級の仕上げとしています。
お寺は言うまでもなく、大切な人の死を弔う場です。そこを訪れる人々の心に十分に配慮した空間でなければなりません。亡くなられた方への敬虔な気持ちや、ご遺族の思いが空間と呼応し、永久の別れにふさわしい設えとなるよう、丁寧に考えました。
現在の技術と古の技を併せ用い、日本人が大切にしてきた仏教への信仰心を尊重しながら、新しさの中にもどこか懐かしく、心を寄せられる空間となることを目指し、思いを込めて手掛けた作品です。




