敷地付近は千葉街道(国道14号線)の喧騒から少し入った、大きな瓦葺きの旧家と新興の住宅が混在して立ち並ぶ閑静な住宅地である。旧家の庭や神社、近くの公園には大きな樹木もあり、周辺は比較的緑豊かである。
この住宅は2階建の2世帯住宅で1階が親夫婦、2階が息子夫婦の住居空間として計画された。各階共、南側をパブリックゾーンに、奥まった北側をプライベートゾーンにしている。それぞれのゾーンは田の字型プランを基調とし、居間の中央にはこの家の象徴として大黒柱が建つ。1階のエントランスはそれぞれのゾーンを結ぶ橋掛かりの役割をもたせた。
街並みとしてのデザイン
外観のデザインは近隣に潤いを与えるよう、街並みに貢献しなければいけないと考えている。この住宅の敷地は南側が船橋市道、東側が私道に面している。市道は人の往来が多く、「動きつつ見る」歩行者が変化を楽しむことができるよう造園と調和した外観デザインを目指した。スタッコ、レンガタイル、木など異なる素材による構成を基本とし、軒や化粧木格子で陰影をもたせ、季節や時間の移ろいによって表情が豊かに変化するように工夫した。また、デザイン上ポイントとなる2階の東南のコーナーに1,200×1,200mmの漆喰(しっくい)のキューブを貫入させ、この住宅の外観におけるシンボルとした。
家具とインテリア
屋内は和風建築の手法を空間に生かすように努めた。開口部からの光の取り入れ方や陰翳に配慮し、独立柱や家具(据付家具、独立家具)がそれぞれ緊張感をもって関係しあい、空間にある一定の秩序が生まれるようにした。またひとつの試みとして、1階の和室の土壁は沈んだ赤を、2階の居間のそれは落ち着いた青をそれぞれポイントカラーとし、無彩色な空間とは異なる個性を演出した。「住宅の居間」=「生活の中心の場」として、これらの色が空間構成に効果的に作用していると思う。
家具は空間に統一感だけではなくそれぞれが積極的に影響を与えるように心がけた。特にリビングの椅子は空間を決定付ける核となるような存在感の強いデザインとした。「個人」の椅子は「個人」の居場所であり、「個人」の居場所は生活空間の「核」であると考えるからである。