戸井田石材店

戸井田石材店

戸井田石材店は、百年以上続く商いと家族の暮らしが、無理なく、静かに重なり続けていくための建築であるべきだと考え、設計しました。
特別なことをしなくても日々がきちんと回り、人が集まる日も、普段の忙しい日常も、自然に受け止められる。その当たり前を、建築として支えることを大切にしています。

敷地は多磨霊園の門前にあり、通りを挟んで玉石積の擁壁と樹齢を重ねた欅の並木が続いています。周辺には寺院も多く、門前町としての落ち着いた空気が今も残る場所です。創業百年を超える戸井田石材店は、お彼岸やお盆の時期になると多くの人が訪れ、地域に開かれた賑わいを見せてきました。

この建築では、墓石や生花の販売、法事などの式典を行う広間、そして住まいが一体となります。限られた人数で仕事と家事を同時にこなす日常において、動きに無理が生じないこと、混雑時にも混乱が起きないことが何より重要でした。私たちは、建築によって暮らしや仕事の負担が少しでも軽くなることを、第一に考えました。

既存建物で長年培われてきた使い勝手を尊重し、東側に店舗、西側に住居という構成を踏襲しながら、その間に二層吹抜の通り庭を通す計画としました。通り庭は、光と風を建物の奥まで導くと同時に、店舗と住まいを分けるのではなく、やわらかくつなぐ役割を担っています。遠回りをせず、自然に体が動く動線とすることで、日常も繁忙期も、同じリズムで過ごせるようにしました。

住居は、吹抜を中心に明るさと風通しを確保し、忙しい毎日の中でも、ふと気持ちがほどけるような空間を目指しました。性格の異なる二つの吹抜が生み出す光と陰翳の移ろいは、時間の流れを感じさせ、住まいに静かな豊かさをもたらしています。

建具には、この新しい建築を思い描きながら、建築主が長い時間をかけて集めてこられた蔵戸や板戸、格子戸を用いました。新しく整えることと同時に、これからの暮らしに向けて準備されてきた時間を受け止めることも、建築の大切な役割だと考えています。
また、広間を仕切る四枚の引戸には、創業時から使われてきたガラス戸を、修理と建付調整、古色の化粧直しを施して再利用しました。新しい空間の中に、店の歩んできた時間が静かに重なっています。

外観は数寄屋造りとし、深い軒と燻し瓦の大屋根によって、門前の老舗にふさわしい落ち着きと品格を備えました。長く続いてきた商いと暮らしを、これからも静かに支え続ける建築であることを願い、設計しました。

設計区分

地域

竣工年数

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