建築主
建築主は、以前携わらせて頂いた世田谷M邸の建築主の弟夫婦で、M邸をとても気に入っておられ、素材や設えは踏襲しながら、今後の二人の生活をより充実させるためにどのようなものがよいのかご相談いただきました。シンプルで無駄のない、それでいて、空間性が豊かな住いにされたいとのご要望でした。
敷地と環境
敷地は5角形で高低差が850ほどもあり、更に北東側隣地には高い擁壁、南東側も土留ブロックで一段上がっていました。接道は片側が急勾配の6m幅、もう1方が、4mの2面接道で、角切が幅3000と大きくとられていましたが、これらは敷地の個性であり、この個性を生かすことができれば、おのずと、よい住まいになるであろうとの予感がありました。
高台にあるため、台風などの際は、雨が下から吹き上げることがあり、雨水に対しては下から、横からの対策が必要とのことでした。そのため、エントランスや、車の乗り降りは雨風があたらないようにする必要あがりました。
ご要望
既存は核家族を想定した一般的な在来木造住宅で、1階は寝室、個室、浴室と細かく間仕切られており、2階にLDK、階段は急勾配の回り階段、雨水の漏水が数カ所あり、このような状況を全面的に改めたいとのことで、構造は地震や風雨に強いRC造、LDKは一体型で1階へ、ゆったりとした階段で2階の寝室、個室へ向かう形とのご要望でした。内装材はM邸と同じく漆喰の壁にアメリカンチェリーのフローリング、高い天井が望まれました。
プランニングとデザイン
第1種高度斜線が大きな制約となりました。そこで、影響が大きい北側へガレージ配し、玄関ポーチと繋げました。治安を心配されて、ガレージにはシャッターを、玄関ポーチにはロートアイアンの門扉、窓にも同じくロートアイアンの格子が取り付けられました。
デザイン的に最も重要で、扱いが難しい角切のところを吹抜の玄関ホールとし、ゆったりと設えた階段をL型に配して繋ぎ、立体的に光と空間が感じられるエントランスとしました。
続くLDKはカウンター収納付きのペニンシュラ型のキッチンを中心に、LDK一体空間とし、リビングはデッキテラスと繋げ、ウイリアム・モリスのファブリックを用いて、落ち着きと気品のある、上質なインテリアに仕上げました。椅子はご夫婦それぞれが、長年憧れていたものを購入されました。奧は水廻りを集約し、2階は寝室と書斎等、プライベートエリアとなっています。
あえて開口を設けなかった角切のところに、コンクリート打放の壁面を立ち上げ、シンボリックで迫力のある外観としました。難しい敷地形状でしたが、全てが上手く嵌り、インテリアも身体感覚に馴染む心地よいスケールで造り上げることができました。