建築主とご要望
建築主は母、娘、愛犬という家族構成です。お二人ともデザインへの造詣が深く、上質な設えに拘りの家具、照明器具をご希望され、ホテルライクでラグジュアリーなインテリアが求められました。
テキスタイルへの知識は専門家顔負けで、お母様はイギリスの草花柄の優雅なものを好まれ、お嬢様は20世紀に活躍したアメリカ人デザイナーのジム・トンプソンを好まれました。
ビフォー
30年前当時、高級感を演出するために用いられた仕上げ素材が、過ぎ去った流行のように古さを感じさせ、当時は斬新だったであろうブラックや濃いグレーのポイントカラーが、灰汁の強い硬質な印象を与えていました。
屋外テラスも水勾配なりに石器質タイルが貼られ、四周は防水の補修のためか塗膜防水がそのまま現しになっており、機能的、景観的にも好ましくない状態でした。
設備全面改修の提案
給水管は当時主流だった鉄管、エアコンは当時のままの天井内レターン方式(天井裏の空気を使う)の天井隠蔽型、換気も不十分な状態で、住環境的に、衛生に多くの問題を抱えていました。そこで、現在の設備に対する考え方、劣化状況、設備改修の重要性をご説明させて頂き、改修のご快諾頂きました。
パイプシャフト内の配管についても既存の状態を部分解体により確認し、よりよく改善するための検討が重ねられました。合理性を追求し、今後のメンテナンスがし易いようにやり替えました。その結果として、パイプシャフトが縮小でき、メインのトイレを一回り広くすることができました。配管はほぼ新しいものへ交換し、勾配が取れていなかった排水管も正しい状態へ、エアコンは最新の天井カセット型に取替えました。シックハウスをご心配されておられたので、換気設備は各部屋にダクトファンを設けて、衛生的な空気環境となりました。
愛犬のための滑り止めタイルは冬場は冷えるので、床暖房をご提案させて頂きました。タイルの床では床暖房の敷設は難しいとお考えだったとのことで、とても喜び頂きました。下地や遮熱材を工夫し、戸内全体の床を既存よりわずか10ミリ上げることで実現できました。
インテリアデザイン
ご依頼時にはドイツ製のキッチンと浴槽はお決めになっておられ、その他の条件としては床はタイルにされたいということでした。柔らかいインテリアがご希望で、壁装は素材感と色調について検討とご相談を重ねました。
基調としたのは、提出させて頂いたサンプルで、特に気に入られた外国製の磁器タイルと、村野藤吾先生が赤坂の迎賓館で用いた温かみのある半艶の白でした。水廻りはタイルと塗装にしましたが、この色合いにクラシカルな高級感が感じられたので、建具や枠、巾木も同様にしました。LDの壁、天井は同じ色調の紙布としましたが、これがとても効果的で、柔らかく落ち着いた空間となりました。
寝室や個室は繊細な色や風合いを出すためにカラーワークス(イギリス製塗料)での試作を重ねました。一面をアーティストが描いた壁紙や鮮やかなポイントカラーで塗装することにより、それぞれ個性的で、華やいだインテリアとなりました。
アフター
テラスは南洋材のデッキ敷きで、ガラス面の巾木と同じレベル合わせて水平にしました。出入がりし易いので安全で機能的、インテリアと一体化して見えることで、空間的、美的にも大きく改善されました。
下地が悪かったり、施工不良個所や劣化の進んでいるところが多々ありましたが、現場で知恵を出し合い、丁寧に検討を重ねて解決してゆきました。建築主のご理解、趣味のよさに支えられ申し分ない改修ができたと思っています。