1・駅舎の建築

駅舎の作品は二つ、2024年現在も現存し使われています。一つは戦前の1940年竣工の橿原神宮駅、もう一つが1970年竣工の近鉄賢島駅です。二作品とも非常に優れた名建築であるにも関わらず、あまり知られていないのが実情です。村野が設計する駅舎は、その先にある主要な施設、橿原神宮や志摩観光ホテルの“門”として設計されている感があります。

外観はメインのコンコースを大空間の吹抜にするためか、どちらも大屋根を使った大胆な造形です。駅に降り立ち改札を出ると、抑制された柔らかい光の中、空間の構成や素材、装飾等を楽しみながら、自ずと進むべき方向へ向かう流れができており、“門”としてよく考えられていることを感じます。但し、意識しないと流されるままになるほど自然です。これは、茶室に招かれた正客の扱いに近いのかも知れません。  <次回、橿原神宮駅について>

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