近鉄グループのリゾート開発による鉄道の整備計画により、1970年に竣工しました。後ろに控える志摩観光ホテルの“正門”として考えられていると思われ、湾と反対側の緩やかな坂道を上り、徒歩5分程度で到着します。森に囲われているので、最後までホテルは見えません。期待を膨らますには、とてもよくできたアプローチです。
南北に大きく伸びた緩勾配の朱の大屋根が特徴で、深い軒の下に広く張り出したバルコニーが続き、それを特徴ある十字型のピロティ―の柱が持ち上げています。水平を強調した形態がとても軽やかで、爽快感のあるデザインになっています。
村野作品に共通するのが「絶対に人を圧迫しない」ということ、ピロティ―の天井は特に気を配り、重さを感じさせないように細心の注意をはらいながら高さや設えを決めたように感じます。※他の建築家のピロティと比較するとよく分かります。
駅を眺めていると、自然にコンコースへ向かいたくなります。村野作品のもう一つの特徴である「人を向かい入れる姿勢」が強く感じられます。コストや工事期間の制約もかなり厳しかったと聞いていますが、それを見事に解決し、ここまで素晴らしい作品に造り上げる手腕は流石とした言えません。この後に志摩観光ホテルが控えていますが、この駅だけでも「建築を満喫した」という満足感がありました。